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中国紡織企業の海外脱出が加速

2009-06-03

「LT会」会報 第8-07号(総32号)

中国紡織企業の海外脱出が加速

配信者:上海良図商務諮詢有限公司

「LT会」会員各位

 アメリカのサブプライムローン問題の影響及び、EUの対中反ダンピング・反保護貿易の声が高まる中、昨今の中国国内の様々な新法・政策の実施により、長らく繁栄を謳歌してきた中国の輸出産業が苦境に立たされている。中でも中国の輸出産業を支えてきた紡織企業に、今変化が現れている。今回はその現状をリポートします。

中国交通銀行研究部の最新の研究によると、アメリカの輸入が10%減れば中国の輸出は3.5%下がり、人民元の対ドル換算率が10%上がれば、中国の輸出は7%下降することになるという。対ドル人民元レートの止まらない上昇、原料及び燃料コストの上昇、銀行の貸出利率と外資企業に対する税収の上昇などすべてが輸出産業にとって不利な条件となっている。

中国最大の輸出紡織品生産基地として知られた広東省東莞市大朗鎮が今、未曾有の危機に直面している。90年代初め、セーター1枚を加工輸出すれば約30元の利益があった。それが今ではたった1元、場合によっては赤字が出る始末だという。人民元レートの度重なる上昇、原材料価格の高騰、輸出増値税還付の引き下げ、人件費の上昇、工場用地の値上がり、電力事情の悪化等、さまざまな要因の影響を受けて、大朗に限らず、中国の紡織品輸出企業は、今年に入ってから更に緊迫した状況下にある。

中国税関の統計によると、今年1~2月中国の紡織品・服飾品の輸出高は164.4億ドルで、わずか5.7%の増加。同時期、輸出が最も多い広東省では35.2億ドルで11.3%の減額となった。2007年度の中国全体の紡織品・アパレルの輸出総額は1679.37億ドルで前年比18.77%の増加となったにもかかわらず、先ごろの国家統計局の発表によると、今年12月の紡織業界における実質利益は133億元で、14.2%しか増加しておらず、前年同期比では39.5%も低くなっている。

 ドル建て決済している輸出企業にとって、人民元の対ドル換算率が1%上昇するごとに、紡績服装企業の販売利益率は26%ダウンする。更にアメリカのサブプライムローン問題、原油価格の高騰等も紡織品の輸出に影響している。また、中国国内では今年1月より「労働契約法」が実施され、労働集約型の紡織企業にとっては人件費の上昇を招いた。

 このように中国内で加工製造するメリットが失われつつある今、中国の紡織企業が海外に進出していく傾向がこれまで以上に加速されるとみられる。現時点でカンボジアとバングラデシュに進出している中国の紡織企業は既にそれぞれ400社と100社を数える。中国紡織品輸出入商会では、近日国内の紡織企業を組織して、カンボジアとバングラデシュに2週間の視察を実施する。カンボジアやバングラデシュが中国企業を引き付ける主な理由は、対欧米輸出に際し、割当制限を受けず、最恵国待遇を受けられることだ。しかもこれらの国は中国企業の誘致に熱心で、税制面でも例えばバングラデシュは外資紡織企業には10年間の所得税を減免する等優遇政策をとっている。

江蘇省で投資額が最大の紡織服装類海外加工貿易プロジェクトとなる“欣(カンボジア)製衣有限公司”は、2006年に中国商務部の承認を得て、親会社となるAB集団有限責任公司が設備・原材料を含め総額1650万ドルを投資し、プノンペンに加工貿易会社を設立した。中国内の原材料をカンボジアに輸出し、現地で加工生産した製品をさらに欧米市場に輸出するのだという。もともと利益率の低い下着生産企業にとって、中国国内のコスト上昇はこれ以上耐えられないところまできている。バングラデシュでは紡織関連企業の一般工員の平均月収は約40ドル(人民元約300元)であるのに比べ、中国の珠江デルタでは1000元を超えている。一部付加価値の低い製品をカンボジアやバングラデシュで生産することで、割当制限の問題も解決でき、貿易障壁を回避できるという。カンボジアやバングラデシュ等の安価な労働力をはじめとする有利な投資環境は、今しばらくは続くだろうとみられている。

海外に投資し、自社工場を建設して現地生産に切り替えるという方法は、輸出を主とする紡織企業にとっては、ある意味突破口と言える。同時に中国政府も実力のある国内企業の海外進出を奨励しており、今後もその傾向はますます加速するとみられる。

                                                             以上